【写経】に臨んで(全5回)・・・③手本について

【写経】に臨んで・・・今日は3回目ですがお手本について書かせていただこうと思います。

最近は、「般若心経」や「観音経」の手本を始め、各種の手本が出版されていますが、初心者の方でもできるだけ古写経の各品の図版で習われる事をお勧めします。因みに参考になる古典を書風別に二三ご紹介します。

まず、素朴で隋経の風趣を偲ばせる通称「和銅鏡」:和銅5年の年紀がしるされていることから『和銅経』の名でよばれています。長屋王が文武天皇の菩提供養のために大般若経六百巻の書写を造営したものです。十数人の写経生の手によるため、書風も一定ではありませんが、そのいずれもが隋・唐の影響を受けていると思われ、やや小粒ながら謹厳で端整な楷書で書かれています。この経には罫が引かれていないことでも有名です。

初唐の均整の取れた繊細な色彩を放つ「五月一日経」(天平12):光明皇后が父藤原不比等と母橘夫人の冥福を祈って書写供養された「一切経」で、一般には『五月一日経』の名で呼ばれています。当時の一切経は「開元釈経録」による5048巻を手本にして書写され、かなりの年月と当然多くの写経生によって分担書写されたようです。その筆跡は区々ですが、かなり洗練された優秀な書き手によるものと思われ、概して唐風の正統を受け継いだ均整のとれた精彩のある書風になっています。優雅さを秘めつつ滋味と温かさを感じさせる書です。

荘厳で覇気に満ちた男性的な筆致の「賢愚経」や「神護景雲経」など、他にも沢山の珠玉の名蹟にひきつけられることと思います。

なお、般若心経には「隅寺心経」と言う天平の遺品が数種あり、初心の方だけでなく何よりの手本になることと存じます。

香龍