ちはやぶる神代も聞かず竜田川からくれなゐに水くくるとは

【ちはやぶる神代も聞かず竜田川からくれなゐに水くくるとは】

百人一首17番

 

判切(34.5㎝×136㎝)

 

現代語訳

さまざまな不思議なことが起こっていたという神代の昔でさえも、こんなことは聞いたことがない。龍田川が(一面に紅葉が浮いて)真っ赤な紅色に、水をしぼり染めにしているとは。

 

●ことば

千早(ちはや)ぶる
次の「神」にかかる枕詞で、「いち=激い勢いで」「はや=敏捷に」「ぶる=ふるまう」という言葉を縮めたものです。

神代(かみよ)もきかず
「神代(かみよ)」とは、「(太古の)神々の時代」という意味です。不思議なことが当たり前に起こった「神々の時代でも聞いたことがない」という意味になります。下の句に記すのは、それほど不思議な現象だということを言っています。

竜田川(たつたがは)
竜田川は、紅葉の名所で、現在の奈良県生駒郡斑鳩町竜田にある竜田山のほとりを流れる川のことです。

からくれなゐに
「鮮やかな紅色」という意味です。「から」は「韓の国」や「唐土(もろこし)」を意味する言葉で、「韓や唐土から渡ってきた素晴らしい品」を表す接頭語(頭につける語)でした。当時の韓や唐土というと先進国で優れた品が日本に渡ってきていたので、こういう意味となったのです。

水くくるとは
「くくる」は「括り染め」、つまり「絞り染め」にするという意味です。「(竜田川が)川の水を括り染めにしてしまうとは」という意味で、紅葉が川一面を真っ赤にして流れていることを、竜田川が川の水を絞り染めにしてしまった、と見立てます。また竜田川を主語にして「擬人法」を使い、また「とは」は上の句の「神代も聞かず」につながるので、倒置法も使われています。

●作者
在原業平(ありわらのなりひら。825~880)
平城(へいぜい)天皇の皇子・阿保(あぼ)親王の息子で、百人一首の16番に歌がある、中納言行平(ゆきひら)の異母弟でもあります。右近衛権中将(うこんえごんのちゅうじょう)にまで出世し、「在五中将」や「在中将」と呼ばれました。六歌仙の一人で、伊勢物語の主人公とされ、小野小町のように「伝説の美男で風流才子」とされました。